シーチキンパラダイス◎ レポ 出演:吉野裕行 他 まず、会場に入って面食らった。舞台がすごいことになっていて・・・。 入り口からしてすでに舞台だったわけで、とういうか、会場中が舞台だったわけで、とにかくびっくりした。 会場を真上から見下ろすとちょうど真ん中、左右に二等分するような形で前方の舞台から細い道が伸びていて。 その道ももちろん舞台ってわけです。で、客席はというと、設定は海になるわけですが(お客さんは魚?みたいな・・・) 正面の舞台に向かって前半分がその道に向かい合うようにして椅子が並んでいて後ろ半分は前を向くという形でゆるやかな傾斜になっておりました。なのでどこからでも舞台は良く見えます。 ただ、複数の役者がいろんな場所で演技をしたらまず目が二つでは足りないかもしれないなと思ったら案の定でした。 本当に小さな劇場で役者も近く、しかも激しく動き廻るから見ていて目が離せない迫力がありました。 *よっちんメインのレポなんで、第3話「潮騒」のみでお送りします。 北の海の小さな港町。そこの沖に浮かぶ小さな無人島・・・。 その船着場が舞台です。 オープニング *オープニングは映像からでした。 軽快な音楽に合わせて、海岸を走る、女→女→男(よっちん!!)が映し出される。 登場人物はたったの3人。 よっちん演じる男の服装は薄茶色のハーフパンツに白長袖ジャージ(中は薄い水色の胸元のにロゴ入りTシャツ)頭にはベージュのニット帽。 とにかく走って走って走る映像。 よっちんが一回転しながら砂浜に寝そべり、女もひとりづつ頭を突き合わせるようにして寝そべる・・・。 画面が暗くなり、 左隅にテロップ 「七月のとある金曜日・・・暑くなりそうな夜明けごろ」 *第1話から第3話までお話は全然違うものなんだけど、場所と人物はリンクしていたりするので、この3話は一体どんな話になるのだろうかと・・・映像とタイトルだけでは想像もつかず興味津々。 1話から3話でちょうど丸一日(七月のとある金曜日)です。ただ話数が進むにつれ時間軸は過去へと遡っていくという設定。 舞台が少しだけ明るくなると(夜明け前だから)いつしかスモークが立ち込めていて一人の女が桟橋(?)に座ってぶつぶつと何かを言っている。 そこへもう一人の若い女が登場。手にはひまわりの小さな花束。 *薄暗い舞台とスモークとでとても幻想的でした。 若い女はこの町出身の若き未亡人で、その日は夫の七回目の命日。 海へ花をたむけに無人島へきていた。桟橋でぶつぶつ言っていた女は東京からやってきた高校教師。気ままな観光かと思いきや(後に分かることとなるが)実は18年前に里子に出したきり会っていない娘を探しにやってきていたのだった。 しばらくすると男(よっちん)が登場。 しがない絵描き(漫画家のアシスタント)。東京から目的もなくぶらりとこの町へとやってきた。 未亡人は亡き夫にそっくりなその絵描きに驚いて詰め寄り、絵描きは気ままな一人旅だと思っていた女が実は高校教師だということに驚く。そして高校教師は未亡人が娘と同じ名前だということに驚いて・・・。 そんな風に話はどんどんと進んでゆき(お芝居はこの3人の会話・・・時々シニカルだったりコミカルだったり)いつしか、絵描きは高校教師に自分のかつての恩師を、高校教師は未亡人に自分の娘を、そして未亡人は絵描きに亡き夫を重ねてゆく。 三人三様の想いがこの北の果ての小さな無人島で交差する・・・そういうせつなくて、でも心温まるお話です。 絵描きの名はハシノユウイチ(29)。未亡人の名はカワセエリ(25)。高校教師はコウサカマユミ(34)。 ハシノの言葉の節々にいい加減さを感じていたコウサカは、彼の高校時代をいじめっこの問題児だったのだろうと決め付ける。が、ハシノは実はいじめっこなんかではなく不登校になって半年も休学をしていた過去を持っていた。 そんなハシノが学校に復帰できた理由は、当時の恩師が持ってきた一冊のノート。その端に描いてあった汚いパラパラ漫画・・・。 それがきっかけとなって復学できたハシノに、コウサカはその恩師に感謝しなくてはいけないと諭す。 当時は複雑な気持ちから素直になれなかったハシノも月日がたち、そのありがたみを知る。しかし、感謝の気持ちを伝えようにも、その恩師はとうにこの世の人ではなくて・・・。 *ぽつりと漏らしたセリフ『会いたくても和えねぇよ・・・』せつない言葉でした。 ハシノは話の矛先をコウサカに向けて、娘に会いたいでしょう?と聞く。 旅の目的が実は娘探しで、方々探してみたがどこにいるのかわからなかったと諦めていたコウサカだったが、偶然にもエリの知る人物であったことがわかり、にわかに再会のチャンスが生まれる。 *よっちんアドリブ炸裂・・・コウサカが娘に会えるかもしれないとにわかにテンションが上がり、今すぐ町に帰る!と言い出した時、ハシノが「ちょっと待ってくださいよ!コウサカさん」というところを「ちょっと待ってくださいよ!カワセさん」と名前を間違って言ってしまった時があったんです。 その時「コウサカさんだよ!俺何言ってるんだよ!間違っちゃったよ!」というアドリブ(?)で切り抜けたんです。 その後、コウサカが「ごめんごめん会えると思ったら、こういっぱいいっぱいになっちゃって・・・」と言うセリフが入るんですが、すかさず、よっちんも、「って、俺もいっぱいいっぱいだよ!!」って絶妙なタイミングで再びダメ押しのアドリブを入れたんです。この時、会場中は大爆笑で。 他の役者さんも名前を呼ぶのを時々間違ってらしたんだけど、ここまで完璧にアドリブで切り抜けたのはよっちんだけ・・・。(って私の見た回ではってことですが) アドリブ炸裂した時、私、思わずガッツポーズでしたわ(笑) 「会えないと思っていたからこそ会いたいと願うけれども、いざ会えるかもしれないと思うと勇気がなくて会えそうにない、ただこっそりと見てるだけになるかもしれない」と尻込むコウサカに、エリが手紙を書けばいいと言う。 それならできるかもしれないと言うコウサカに、ハシノが、エリを娘に見立てて手紙を読む練習をしろと提案する。 「わかりました。そんなコウサカ先生のために、今日はスタジオまで来て頂きました。・・・絵里ちゃんです」 「は?」 「はやく、読んで!絵里ちゃん待ってるから・・・はい、何小節目かのラブソングです」 そう言っておちゃらけながら、鼻歌BGM(16小節のラブソング)入(笑)の中、コウサカが感動の手紙を読み上げる。 エリは、ハシノが亡き夫に似ていて最初に見た時驚いたのだということを告げる。 そんなことあるわけもないのに期待してしまったことを恥じ、来ない人を待ち続けて岩になってしまった伝説の乙女のようになるわけにもいかないから、お供えも今年で最後にしようと思っていた。そう決心した時、偶然にもハシノと出会ってしまった・・・と訥々と語る。 するとコウサカが、勝手に伝説をでっちあげて、一日だけエリのために神様が亡き夫と会わせてくれるご褒美をくれたのだ!と言い張り、無理やりハシノに夫の代役をやらせようとする。 そんなことをした所でえりは嬉しくない!!とハシノは反対するが、エリはそれでもいいからやってくれと頼む。 しぶしぶ了承するハシノ。 「ただいま」(棒読み) 「おかえりなさい」 「元気だったか?」(棒読み) 「はい」 「きれいになったな」(棒読み) 「あなたは少しもかわらないですね」 「毎年お花を供えてくれてありがとう。嬉しかったよ・・・」(棒読み) 全編に渡り棒読み調です。最後だけ心を込めて言い直せと言われて心を込めて言い直します。 最後に「愛してるよ」と言え!とコウサカが指示を出すが、ハシノが「なにやらすんですか!」と完全にキレてしまう。 でも、「もしほんとうに一日だけ会えたらなにがしたい?」と問うコウサカに、エリはまだしていなかった「結婚式がしたい」と答える。 じゃあソレやろうってことになり、ハシノはますますキレる。 でもエリがそれを望んで、結局、演じるはめになる。 *この時、よっちんが私の目の前にきました。視線は海に落されていて・・・。間近で見るその表情は苦しそうなせつなさそうなでもって憤りも加わって、そんな複雑な表情を間近で見てしまった私はもう・・・(爆) まずは母への言葉でエリがコウサカへお決まりのありがとうを言う。コウサカも実の娘に言われてる気がして感動する。 そして、母から娘への言葉。 「人には越えなくてはならない3つの場があります。修羅場、土壇場、正念場!!」 ハシノが呆れながら結婚式の場にはふさわしくないでしょうと即時却下し、 「足元をしっかり見て生きなさい」 とコウサカが言いなおすが、しかし、 「足元を見られるのって、なんか嫌だ!」 とまたもや却下。 *この辺はやり取りがおかしくて笑いっぱなしでした。 それから二人の結婚式。 コウサカが神父役をやり、エリのショールをベールにみたてて、ひまわりの花束はブーケになる。コウサカがハシノのかぶっている帽子をむりやり脱がせると自分がかぶり、ハシノの髪型を無理やり七三わけに撫で付けたりして、当然嫌がるハシノ(笑) 二人の腕を組ませて、歩かせて、そして、誓いの言葉。 最初はものすごく嫌々やっていたハシノだったが、コウサカが読み上げる誓いの言葉に「誓います」と粛々と答えるハシノ。 続けてエリも答え、しばらく見詰め合う二人・・・。 *この辺でハシノ君はエリちゃんに恋をしたのだと(ただ流されただけではない)と思いたい私・・・。 そして、誓いのキス。 もはや、我にも返らず自然に動いてしまうハシノ。ベールを下ろすと、しっかりと手を握って・・・ *ここで肩を抱くとか抱きしめ合うとかじゃなくて、ただ手を握り合って・・・というのが私的ツボでした。なんか、とても、ほんとにステキだったんです〜。 そして、キス・・・・・・。 *私の心中はもう感無量って感じになってて、エリに同化してたのか、コウサカ先生に同化してたのか、わけわかんなくて、気付いたら号泣しておりました・・・。 結婚式のシーンはとても神聖で、こんなに美しい二人を見たことがありません!!ってくらい感動しました(や、ホント!マジで!!) その後、やっと我に返ったハシノが焦って謝って、コウサカを責める。 「こんなところでなにをやってるんだよ〜」と自己嫌悪に陥るハシノだが、しかし誰も責めません。 今ここに3人がいるという偶然の奇跡、これは海に呼ばれたのだとエリが言う。 気付くといつしか靄も晴れて夜明けがはじまり、当初の目的だった日の出を3人で見に行こうということになる。 「海は好きですか?」 最初にエリがハシノと出会った時に問いかけた言葉。 「いや、べつに普通ですけど・・・」 と答えたはしの。 「海は好きですか?」 最後にもう一度、とエリが問いうと、 「はい。好きです」 と噛み締めるように答えたハシノ。 そうして、コウサカに促され、ハシノはエリに歩み寄る。 差し出したエリの手をハシノがしっかりと取ると、互いは見つめ合ったまま歩いてゆき・・・。 その後をコウサカが追い、3人は舞台後方へとはけてゆく・・・。 暗転。 よっちんの役どころは都会の男・・・なんとはなしに日々坦々と生きているという感じ。登場人物の他の2人にくらべると過去設定とかパーソナルな部分はよほど平凡なので、役作りは相当大変だったのではないかと思いました。 ただ、思い出したくないせいか過去をあまり振り返りたがらないような性格も、コウサカと出会って、過去を吐露するに至って、調子を崩されてゆくさまが名演でした。次第にエリのことを気にかけてゆくところとか、本当に些細な、ちょっとした心の変化、それらをゆっくりと小出しにしてゆく演技はとてもよく表現できていたよなって思いました。 コミカルな部分もたくさんあって、コウサカとのやり取りは息もピッタリの漫才のようだったりして(よっちんがツッコミ担当でした)その間合いは本当に絶妙で、せつないシーンにも拘わらずどっと笑いが起こっていました。 最初から最後まで目が離せなくてつい見入ってしまい、結構長い芝居だったと思うんですが、あっという間でした。 よっちんの初お芝居にしては、本当にはじめてなの?ってくらい貫禄とかあってほんとスゴイ!と正直驚きました。と、同時に嬉しくて、もっともっと吉野裕行のお芝居見たいぞ!と思った瞬間でもありました。 3人だけのお芝居ってバランスが難しいと思うのですよ。しかもよっちんだけ男だったし。コウサカ先生ははっちゃけてるし、エリは大人し過ぎだしと両極端な性格を相手にその間に割って入って演技してて、誰かが霞んでしまうということもなく3人ともが立っていたと思います。 3人一緒にという会話が殆どだったんだけど、コウサカとエリの二人だけの会話とか誰かの独白とかになると、よっちんはもちろん黙って聞いてる体勢になるんですが、でも、ちゃんとどこかで、小芝居をしてるんですよ(笑) 本当普通に海眺めてる芝居とか砂で遊んでる芝居とか・・・、寝てる芝居(一番リアルだった)とか本当そういうの全部が感動でした。 |